50年前の禅僧の哲学が、令和時代に最先端の議論を巻き起こす!「真実の自分」とは何か?―禅僧・内山興正老師によって、50年前、『進みと安らい』に描かれた「自己曼画」。その自己の構造を起点にして、著者4人がバトンを受け継ぎ、新たな哲学を発見する。

Yuya Uzu

内山興正老師の著作である「進みと安らい」の内容を元に３人の仏教者と１人の哲学者がそれぞれの自説を語ると言う内容。

坐禅を本格的に実践しようとするものにとって、この本は大きな価値を持つ。なぜなら、この本のメインのテーマが「坐禅により到達する境地」についてであり、一般的な禅の解説では「語り得ないもの」として退けられそうなテーマに挑んでいるからである。

特に興味深かったのは４者それぞれの「慈悲」の扱いである。慈悲といえば仏教の根幹とも言えるテーマであり、かなり重要であるはずなのだが、ここで４者の考えがかなり異なっているのだ。まず、山下氏は「慈悲」を坐禅の根幹に据えている。坐禅で到達できる場所に慈悲が備わっているという考え方だ。ネルケ氏は、坐禅の実践と慈悲に直接の繋がりを見出せていないという認識を持ちつつも、それをどう繋げられるかを模索されている（この中ではある意味禅仏教に対して最も誠実な姿勢を持たれている方なのかもしれない）。藤田氏は本書では慈悲についてはほとんど語っておらず、「進みと安らい」というテーマに焦点を当て、あくまで一個人の人生に対する姿勢について語られている（藤田氏は慈悲を坐禅の根幹ではなく２次的なものとして捉えられているようである）。そして哲学者である永井氏は最もドライであり、曰く「瞑想・坐禅は本来、第一義的には、真理を知るための実践であると思う。その結果どうなるかとは無関係に、である。」とのこと。つまり、道徳とか慈悲のような人間社会で作られた「価値」みたいなものと坐禅とは本来関係がない、というスタンスだ。

ここで一つ興味深い点は、この４人の中で慈悲について確信を持って語られているのが山下良道氏ただ一人だけであるということ。このことは、山下氏がこの中で唯一テーラワーダ仏教でヴィパッサナー瞑想を本格的に修行されたという事実と無関係ではないだろう。

ヴィパッサナー瞑想が苦の消滅に至る実践として非常に洗練されているものらしいということは、山下氏の話で伝わってくる。一方、坐禅とは一体どこに向かうものなのか、仏教の教義である慈悲とどう関係するのか、ここまで読んでも依然はっきりしない。はっきりしないだけなら自分の理解が浅いだけかと思うところだが、なんと禅の実践者であるネルケ無方氏もこの点で「行き詰まっている」と言うではないか。この言葉が禅の世界の人間から出てくるのはえらいことである。もしかしたら大乗仏教における坐禅は未だ完成されていない行なのかもしれない。

50年前の禅僧の哲学が、令和時代に最先端の議論を巻き起こす!「真実の自分」とは何か?―禅僧・内山興正

Hondana

哲学する仏教

By 藤田一照, 山下良道, ネルケ無方, 永井均

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